ELPを聴く

マイ10大プログレ紹介シリーズ 第5弾

ELPは5大バンドで唯一、結成前から名プレイヤーとして知られていたメンバーが結集して結成された。クラシック音楽からの影響が強く、実際にモチーフを引用している曲も少なくない。またシンセサイザーを導入したことでも知られ、彼ら独自の音楽性の確立の一助となった。またメンバーにギタリストを含まないキーボード・トリオであるという点も、5大バンド唯一である。

1972年にKeith Emerson(キース・エマーソン)がGreg Lakeグレッグ・レイク)を誘う形でバンド結成の話が進み、Carl Palmer(カール・パーマー)がスカウトされてメンバーが揃った。

スーパーバンド

1970年6月に結成が公表され、8月には最初のライブが行われた。4月からレコーディングが行なわれており、デビューアルバム『Emerson, Lake & Palmer』は11月にリリースされた。前々からの人気と期待に答える形でリリースされ、全英4位を記録した。結成当初の作品ということもあり、後の作品と比べると稚拙な面が目立つ。しかしあくまで彼らの作品群の中で見ればの話であり、その独創的な世界観と作風は既に絶対無二を感じさせる。

1971年になると『Tarkus』がリリースされ、前作では少ししか導入されていなかったシンセサイザーが、本格的に使用されている。イギリスで1位、アメリカで9位を獲得し、彼らの代表作の1つとして認識されている。20分半にも及ぶタイトル曲は、空想上の怪物が破壊の限りを尽くすというテーマになっている。この曲以外は小曲で「Are You Ready Eddy?」は異質なロックンロール。だが「The Only Way (Hymn)」、「Infinite Space (Conclusion)」(限りなき宇宙の果てに)のようにプログレとしてのエッセンスを感じるものもある。

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また同じ年に海賊盤対策として急遽『Pictures at the Exhibition』(展覧会の絵)をリリース。『Tarkus』のレコーディングと同時期にライブ・レコーディングされていたもので、当初はリリース予定ではなかった。そういった経緯ではあるもののイギリスでは3位、アメリカでは10位のヒットとなった。日本でも2位のヒットとなった。Mussorgsky作曲の組曲であるが、Ravelが編曲したものを基盤にしている。Tchaikovskyの「The Nutcracker」をアレンジした「Nut Rocker」もボーナスとして収録されている。

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1972年にレコーディング、リリースされた『Trilogy』は、『Tarkus』や次作に埋もれがちな作品であるが決して駄作というわけではない。また目立った長尺曲がないというのも、印象が薄い要因の1つとなっているのだろう。8分ほどの曲は収録されているが、飽きさせずに聴かせることで長さを感じさせない仕上がりになっている。クラシック音楽以外の要素も含まれているが統一感があり、非常に完成度が高いことが伝わってくる。

1973年になると主催レーベルを発足させ、『Brain Salad Surgery』(恐怖の頭脳改革)をリリース。これは彼らの最高傑作と評されることが多い1枚で、全盛期の最後を飾る作品となった。なんといっても3部構成全4トラックの「Karn Evil 9」(悪の教典#9)はキャリアを代表する曲の1つであり、とりわけ「2nd Impression」や「3rd Impression」におけるシンセサイザーのプレイは鬼気迫るものがある。またこの曲ではLakeがギターを弾き、Emersonがキーボード(右手)とシンセサイザーでベースパート(左手)を演奏することによって4人構成と等しいスタイルが成り立っている。アルバムタイトルは口淫を表す隠語で、H. R. Gigerの描いたジャケットにも性器をモチーフにしたデザインが含まれている。

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アルバムリリース後にツアーを開始し、翌年もツアーとライブ盤の発売のみにとどまった。1977年までELPとしての表立った活動はなかった。

活動再開

活動が停止している間、メンバーはそれぞれソロ企画を進めていたがそれぞれを合わせてELPの作品としてリリースすることが決定。各メンバーのソロにELPとしての新曲を追加する形で2枚組の『Works Volume I』(ELP四部作)がリリース。各面にそれぞれのソロがまとめられ、Emersonは「Piano Concerto No. 1」、LakeとPalmerは小曲を数曲収録。ELPとして収録した「Fanfare for the Common Man」はショート・バージョンがシングルカットされ、最大のヒット曲となった。

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同年に続編となる『Works Volume II』(作品第2番)がリリースされたが、この作品用の新曲はわずかしかなく、そのほとんどはこれまでのアウトテイクかソロ曲となっている。そのせいもあってか、イギリスで初めてトップ20入りを逃した。この頃メンバーはもはやELPとしての活動を辞めようと思っており、次作をもって解散する予定をたてていた。

そうして制作、リリースされたのが『Love Beach』。契約遂行のためだけに制作された作品であり、当然メンバーの制作意欲はない。ELPらしからぬ作品名もアンケートで選ばれたものにしただけ。『...And Then There Were Three...』や『Tormato』のように同年の5大バンドの作品を考えると、ややポップな要素を取り入れる路線へのシフトはELPだけに限った話ではない。プログレッシヴな楽曲もほとんど影を潜めており、半ばヤケに制作されたのではないかとも思える。合計20分超の組曲「Memoirs of an Officer and a Gentleman」(将校と紳士の回顧録)は、解散前最後の長尺曲でありながらこれまでのような緊迫感が感じられないことだけが残念。とはいえEmersonのキーボードプレイはさすが。このアルバムに伴うツアーは行なわれず、翌年はライブ盤の発売のみが行われた。1980年2月にバンドの解散が発表され、日本でも新聞に載るほどのニュースとなった。

再結成

80年代半ばになるとバンド再結成の話が持ち上がるが、PalmerはAsiaでの活動に忙しく話に応じなかった。そこでEmersonと親しかったCozy Powellコージー・パウエル)が加入し、Emerson, Lake & Powellとしての活動がスタートした。1986年にリリースされた『Emerson, Lake & Powell』は、ポップなプログレが流行する時勢の中でも元来のスタイルで勝負をした作品。豊富なメロディによってもともと独自のポップ性をもっており、その点は変わらぬクオリティを見せつけている。HolstのThe Planets(組曲惑星 作品32)から「Mars, the Bringer of War」(火星、戦争をもたらす者)をカヴァーしている。アルバムリリースとツアー後、Powellが脱退する形で解散した。

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AsiaからPalmerが脱退し、オリジナルの3人での活動再開を目指したがLakeが離脱。Robert Berry(ロバート・ベリー)を迎えて3(Emerson, Berry & Palmer)を結成し、1988年に『To the Power of Three』(スリー・トゥ・ザ・パワー)をリリースした。ELPの正統な形であったEmerson, Lake & Powellとは違い、3はELPの再結成という形ではないと公言されている。それはサウンドにも如実に現れており、このアルバムはポップ・ロックが主体になっている。ただEmersonのキーボードプレイは冴え渡っており、そのあたりにのみELPの面影を残している。ただポップ・ロックの作品としては、「Chains」や「Runaway」など良曲揃いである。ただセールスは芳しくなく、本作のみのリリースとなった。

オリジナル

1991年にオリジナルメンバーでの活動再開が正式に決定し、1992年に『Black Moon』をリリース。EmersonとLakeがそれぞれソロ用に作っていた曲に加え、ELP用の新曲が収録されている。全盛期の頃の要素をある程度は引き継いでいるとはいえ、良い評価につながりはしなかった。ELPらしさといえばEmersonによる華麗なキーボードであり、本作でそれが楽しめるのは「Changing States」であるが、これはEmersonがソロ用に用意したものである。

世界ツアーやボックスセットのリリースを経て1994年にリリースされた『In the Hot Seat』は、前作よりもさらにELPらしさが後退している。特筆すべき点は、これまでもクラシック音楽のアレンジは多く収録されてきたが、ここにきて初めてクラシック以外のカヴァー「Man with the Long Black Coat」を収録。ボーナストラックとしてであればこれまでもあったことだが、本収録としては初。また先述のボックスセットに収録された再録版「Pictures at an Exhibition」がボーナストラックとして収録された。はっきり言ってそれ以外に聴きどころはない。

その後目立った活動は減っていき、90年代後半にはもう実質的な解散状態になった。その後2010年に一夜限りの再結成ライブが行われた。しかし2016年にEmersonとLakeが亡くなり、オリジナルメンバーでの復活は完全になくなった。