キング・クリムゾンを聴く Pt. 2

ディシプリン・クリムゾン

1981年、フリップはブルフォード、Tony Levinトニー・レヴィン)、Adrian Belew(エイドリアン・ブリュー)と共にバンドを再結成。70年代にみせたプログレッシヴな路線とは全く異なり、当時の流行であったニューウェーヴを取り入れた。『Discipline』はこの再結成に際して最初に考案されていたバンド名をタイトルに据えたもの。新たな路線に対して多くの批判が寄せられたが、作品そのものの完成度は非常に高く、傑作の一つとして数えられることもある。ギターで象の鳴き声を模した「Elephant Talk」では、会話に関連する単語をただ羅列しただけの歌詞になっている。突然の日本語タイトルに驚かされる「Matte Kudasai」は、穏やかな曲調に身を委ねていると歌詞でも「待ってください」と聞こえてきて我に返る。

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もともと前作のみのプロジェクトを考えていたため、ただ契約枚数をこなすためだけに次の2作は制作された。1982年の『Beat』の制作は難航したと言うが、ニューウェーヴ/ポスト・プログレとしての完成度はやはり高い。「Neal and Jack and Me」や「Waiting Man」のように変拍子が取り入れられたり、若干のプログレの気配を感じさせる曲がありつつ、「Heartbeat」のようにシンプルでポップな曲もある。

1984年の『Three of a Perfect Pair』までは前作よりも製作期間が長かったが、モチベーションの低下は否定できない状況だった。ニューウェーヴ路線は『Discipline』が頂点であり、本作はプログレ的サウンドへの回帰をみせている。ただしその割合が非常に中途半端な加減になっているせいか、一般的に評価は高くない。シングルカットされた「Sleeper」のようにまさしくニューウェーヴ路線上の曲。「Industry」、「Dig Me」、「No Warning」の3曲では、70年代の即興演奏志向と当時のモダンな路線が融合したような、実験的で無機質な印象が強い。このアルバムで最も注目すべきは最後に収録された「Larks' Tongues in Aspic, Part III」(太陽と戦慄パート3)。この曲で聴けるパッションはまさしく70年代当時のそれに近しく、電子楽器を用いることで若干のモダン・アプローチを感じさせつつも懐かしい想いに浸らせてくれる。リリース後の北米ツアー終了後、バンドは解散した。

ヌーヴォ・メタル

80年代のラインナップにTrey Gunn(トレイ・ガン)、Pat Mastelotte(パット・マステロット)を加入させたダブルトリオと呼ばれる6人体制でバンドが再始動。1974年の『Red』で片鱗を見せたプログレッシヴ・メタルを推し進め、EP『Vrooom』をリリース。あくまで次作『Thrak』へのつなぎの作品であるが、80年代に聴かせたサウンドとは方向性が異なることがすぐにわかる。硬質なギターが響くタイトル曲からして明らかに異質であり、ヘヴィ・メタルの系譜の直系ではないにせよとてもメタリックだ。

11年ぶりのフルアルバムとなった『Thrak』は、前作に収録された「Vrooom」や「Thrak」以外にも、メタリック路線の「Dinosaur」が収録。俗に言う「メタル・クリムゾン」としてのスタイルが出来上がった作品であり、一般的に評価は低くない。長いツアーの後、ダブルトリオは一旦解散状態になり、ProjeKctと呼ばれるユニット活動が始動した。

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2000年にProjeKct名義でアルバムをリリースし、本家バンドの新作の制作に取り掛かった。だがBrufordとLevinは復帰せず、4人体制で『The ConstruKction of Light』が制作された。ヌーヴォ・メタル路線をさらに追求した作品で、ギターの比重がとても大きくなっているのが分かる。「FraKctured」では曲の途中から段々とハードさを増し、紛れもなくプログレ・メタルと呼べるサウンドになる。また「Larks' Tongues in Aspic Part IV」(太陽と戦慄パート4)が収録され、これまでのパートを彷彿とさせるフレーズの登場に心が躍る。

ヘヴィ路線に飽きることなく、EP『Happy with What You Have to Be Happy with』(しょうがない)をリリース。以前も日本語をタイトルに据えた曲をリリースしたことがあったが、本作には2曲収録されている(「Mie Gakure」、「Shoganai」)。また本作は『Thrak』に対する『Vrooom』とほぼ同じ位置付けであり、次作への橋渡しとなる作品だ。

そしてヘヴィ路線の集大成として、2003年に『The Power to Believe』がリリース。「Level Five」は「Larks' Tongues in Aspic」のパート5と考えられており、プログレッシヴな展開とエッジの立ったギターフレーズを堪能できる。また本作のタイトル曲は4つのパートに分けられ、間に別の曲を挟んで収録されている。全体的に無機質な印象が強く、サウンドの寒々しさもヘヴィさを際立たせている。本作に伴うワールドツアー以降、バンドは活動を休止した。

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幾度かバンド再開の話は立ち上がるが、頓挫。2011年にサイドプロジェクトとしてアルバムをリリースし、Frippは引退を発表。その後2013年に前言撤回し、バンドがリスタートした。とはいえ新作のリリースはなく、メンバー構成を変えつつライブ活動が続けられている。