マリリオンを聴く Pt. 1

マイ10大プログレ紹介シリーズ 第7弾

Marillionはポンプ・ロック=ネオプログレッシヴ・ロックの代表格として知られ、このジャンルの確立に一役買ったバンドである。

1979年にイギリスで結成され、当時のバンド名はJ.R.R. Tolkeinの作品からとってSilmarillionであった。当時のメンバーはMick Pointer(ミック・ポインター)、Steve Rothery(スティーヴ・ロザリー)、Doug Irvine(ダグ・アーバイン)、Brian Jelleyman(ブライアン・ジェリーマン)。その後著作権等の問題を避けるため、1981年に現在の名称に変更された。その後何度かメンバーチェンジを経て、Pointer、Rothery、Fish(フィッシュ)、Mark Kelly(マーク・ケリー)、Pete Trewavas(ピート・トレワヴァス)というデビュー時のメンバーとなった。

ジェネシスの模倣

1982年にシングル「Market Square Heroes」でデビューを果たした。この曲はポップな曲調と存在感あるキーボードを兼ね備えたロックソング。また12インチ盤のB面に収録された「Grendel」は17分を超え、バンドにとって初の大作志向の楽曲となった。 翌年には『Script for a Jester's Tear』(独り芝居の道化師)でアルバムデビュー。複雑でシアトリカルな作風となっており、Genesisのフォロワーとして広く認知された。また本作は以降続く3部作の第1部となっており、バンドの最高傑作とする声も高い。「He Knows You Know」や「Garden Party」といったスマッシュヒットが誕生し、アルバム自体もデビュー作ながら全英7位のヒットとなった。

デビュー作のリリース後Pointerが脱退し、Andy Ward(アンディ・ワード)、John "Martyr" Marter(ジョン・マーテル)、Jonathan Mover(ジョナサン・ムーヴァー)と、次々ドラマーが加入脱退を繰り返した。最終的にはIan Mosley(イアン・モズレイ)に落ち着き、以降現在まで在籍している。 1984年にリリースされた2作目『Fugazi』(破滅の形容詞)では、先行カットされた「Punch & Judy」「Assassing」(暗殺者)に代表されるように、よりストレートなハード・ロック寄りのサウンドを展開。「Incubus」(夢魔)のようにバンドのシアトルカルさを体現したような曲もある。個人的にはチャーチオルガンによる神秘的なオープニングの「She Chameleon」が気に入っている。アルバムは前作よりも順位を上げ、全英5位にランクインした。

1985年にはバンドにとって最も商業的に成功したアルバム『Misplaced Childhood』(過ち色の記憶)がリリース。優れたコンセプトアルバムとして知られ、全英1位となった。またシングルカットされたバラード「Kayleigh」(追憶のケリー)は2位、「Lavender」は5位にランクイン。これまでの2作と比べ、2~3分の小曲が多く収録されているのも特徴。7分を超えるものが「Bitter Sweet」(苦い記憶)と「Blind Curve」(隠された陰謀)の2曲のみ。ギターメロディが先導する曲が多い印象を受け、全体的に穏やかながらも抑揚を感じさせる。薬物乱用やアルコール中毒、売春から再生、贖罪に至る深い題材の曲があり、これらはFishの原体験から着想を得ているという。コンセプトアルバムということもあり、作品トータルでのまとまりが良く、完成度の高さを感じることができる。

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Misplaced Childhood (2017 Remaster)

Misplaced Childhood (2017 Remaster)

  • マリリオン
  • ロック
  • ¥1600

1987年の『Clutching at Straws』(旅路の果て)は、一般的に名盤とされる前作・次作に挟まれているが故に劣ってみられがちな隠れた名作。制作が終わらない段階でツアーの日程が組まれたこともあり、プレッシャーに押しつぶされながら完成した。従来通りの美しいメロディが散りばめられているが、嫌悪などのネガティヴな歌詞の曲が多い。冒頭3曲はつながっており、流れるように聴き通すことができる。アルバムは全英2位となり、シングル「Incommunicado」(さらば青春の光)も全英6位のヒットとなった。感情を震わせる「Sugar Mice」(雨にうたれるシュガー・マイス)も名曲。Fishが在籍する最後の作品となった。

Sugar Mice

Sugar Mice

  • マリリオン
  • ロック
  • ¥250

独自性の確立

Fishの後任としてSteve Hogarth(スティーヴ・ホガース)が加入し制作された『Seasons End』(美しき季節の終焉)は、これまでGenesisのコピーと揶揄されていたFish時代の影を払拭するに充分な名盤。とはいえ持ち味であるメロディを重視した美しさは衰えておらず、ホガースの透明感あるヴォーカルがそれを引き立てている。ホガースも積極的に制作に参加し、より快活なロックへと発展している。感動的な「The King of Sunset Town」(サンセット・タウンの王)やドラマティックかつロマンティックな「Seasons End」(美しき季節の終焉)、浮遊感のある「The Space...」といった名曲揃いの中、特に「Easter」はライヴでも重要な場面で演奏されることが多い名曲。終盤に配置された「Hooks in You」ではポップメタルに接近して酷評されたが、曲としては非常に優秀だ。

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Seasons End

Seasons End

  • マリリオン
  • ロック
  • ¥1900

90年代に入って初のアルバムとなった『Holidays in Eden』(楽園への憧憬)では、ホガースが以前在籍していたバンドの曲のアレンジを収録するなど、ホガースの存在感が大きくなっている。もちろんMarillionらしさを損ねているわけではないが、アルバムをトータルで見ると構成美は弱まったように感じる。作風は前作とほぼ同路線であるが、少々大人しくなっており地味とも捉えられるかもしれない。一方でポップな曲はポップに振り切っており、その最たるものが前述したカヴァーの1つである「Cover My Eyes (Pain and Heaven)」。また前作のようにポップメタル路線の曲「This Town」(すべてを変えるこの街で)も収録されている。

1994年の『Brave』はバンドの史上最高傑作と評されることが多い1枚で、陰鬱なトータルコンセプト・アルバム。「Bridge」(沈黙の橋)から「Made Again」に至るまで、一瞬の気の緩みも許されない緊張感に包まれている。そのコンセプト故に単調と言われることもあるが、きちんとストーリーとしての抑揚は存在している。本を1冊読んだかのような、映画を1本観たかのような満足感に包まれる。社会的なメッセージを叫ぶ「Living with the Big Lie」(嘘まみれの世の中で)や、切なさに胸を打たれる「Runaway」、12分以上にわたる組曲Goodbye to All That」(永遠の逃避行)といった冒頭部部分で既に満腹。鬱で絶望的な曲が続く中、それらを全て乗り越えた者だけがたどり着ける「Made Again」に救われる。ささやかで素朴だがそこには確かな希望が存在している。

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Brave

Brave

  • マリリオン
  • ロック
  • ¥1900

1995年の『Afraid of Sunlight』は、壮大なコンセプト作となった前作とは違い、よりストレートな作風となっている。とはいえコンセプトは存在しており、ホガース曰く自滅的な人生を送った人々の視点に立って作ったそうだ。静と動のメリハリが効いた曲が多く、バラエティに富んでいる。キャッチーながら感動的な「Beautiful」、切ないボーカルワークが堪能できる「Out of This World」は秀逸。ラストの「King」ではハードロックにも近い音像を提示している。

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