ラッシュを聴く Pt. 2

模索

Led Zeppelin直系のハードロックから、大作志向のプログレッシヴ・ロックへ華麗に転身し、徐々に発展しながら独自性を築き上げてきたRush。80年代になるとシンセサイザーを取り入れ、ニューウェイヴ/ハード・ポップへのアプローチを試み、『Hold Your Fire』で完成された。 1989年の『Presto』はよりコンパクトかつポップになったが、その分Rushらしさが伝わりにくくなっているように感じる。そのせいかキャリアの中でも地味なアルバムという位置づけにされることが多い。全体的に爽やかであっさりめのサウンドになっており、USメインストリームロックチャートで1位を獲得した「Show Don't Tell」やタイトル曲は佳曲。

Show Don't Tell

Show Don't Tell

  • ラッシュ
  • ロック
  • ¥200

90年代最初のアルバムとなった『Roll the Bones』は、全米3位を獲得するヒットとなった。カットされた「Dreamline」や「Roll the Bones」、「Ghost of a Chance」は軒並みチャート上位にランクイン。美しいメロディに支配される「Bravado」も聴き逃せない。「Where's My Thing? (Part IV, "Gangster of Boats" Trilogy)」はRushにとって2曲目となる、グラミー賞にノミネートされたインストゥルメンタル。もうハード・ポップなスタイルが定着して完全に振り切れた印象を受けるが、その路線の作品群の中ではとても完成度の高い作品のひとつであるといえる。

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1993年の『Counterparts』ではギターとドラムのサウンドが際立つようになっており、当時の流行であったグランジの影響を受けた作品。冒頭の「Animate」および「Stick It Out」ではそれが顕著で、ハードな曲調が戻ってきたという印象を感じさせる。後者からは特にグランジ色を強く感じられる。 インスト「Leave That Thing Alone」では前作収録曲に続いてグラミー賞にノミネートされた。ややこれまでのポップ路線に近い「Nobody's Hero」や哀愁を感じさせるハードナンバー「Cold Fire」はシングルカットされて、好成績を残した。

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Leave That Thing Alone

Leave That Thing Alone

  • ラッシュ
  • ロック
  • ¥200

Cold Fire

Cold Fire

  • ラッシュ
  • ロック
  • ¥200

前作で取り入れたグランジの要素を昇華し、また発展させた『Test for Echo』は全米5位を獲得。2位だった前作に比べたら順位こそ落ちているが、作品のクオリティは向上している。取り入れた要素を自分らなりのサウンドに落とし込んでおり、またハードさが戻ったことに伴ってプログレ的な要素も再び感じられるようになってきた。特に「Driven」では変拍子で刻まれたリズムが飛び出し、懐かしさと同時に安堵の気持ちが巻き起こる。 ただ本作がリリースされた後、Peartは立て続けに娘と妻を喪い、1998年にバンドの活動が停止。Peartはそのまま放浪の旅に出てしまった。

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Driven

Driven

  • ラッシュ
  • ロック
  • ¥200

回帰

しばらくの活動休止の後、2001年に新作の制作を開始。2002年に『Vapor Trails』がリリースされた。このアルバムではハードロックへと回帰しており、非常にエネルギッシュな作品になっている。とはいえ原点回帰とはやや異なり、これまで通過してきた様々なロックをバランス良く統合し、それをハードロックに混ぜ合わせたという印象。また本作は『Caress of Steel』以来初めてシンセサイザーが使用されていないアルバムとなる。シングルカットされた「One Little Victory」や「Secret Touch」は特にハードな要素が感じられる曲。「Freeze」は"Fear"シリーズの第4部。

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2004年にはThe YardbirdsThe Whoなどの全8曲をカヴァーして収録した『Feedback』をリリース。続いて2007年には『Snakes & Arrows』を発表し、プログレッシヴな要素も取り戻しはじめた。今作は久々に全米チャートトップ3入りを果たし、各専門誌でも概ね高評価となっている。カットもされた「Far Cry」はハードな音使いとプログレのエッセンスがバランス良く感じられる曲。3曲のインスト曲を収録しており、「Maligrant Narcissism」はグラミー賞のベスト・ロック・インストゥルメンタル・パフォーマンスにノミネートされた。

Far Cry

Far Cry

  • ラッシュ
  • ロック
  • ¥200

ライヴアルバムのリリースを挟んだ次作『Clockwork Angels』は、前作とほぼ同じ路線の作品。冒頭の「Caravan」および「BU2B」はヘヴィさの際立った曲で、これらは共にアルバムリリースよりも2年前にシングルとして発売されていた。その2曲を始めとし、「Headlong Flight」のように前作よりもハードさが強調された曲が多く収録されている。ジャケットの時計は9時12分を指しており、これは21時12分、つまり1976年に発表した名盤『2112』を意味している。ストーリー性のあるハード・ロックという、黄金期を彷彿とさせる方向性が感じられる。

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2015年にはPeartの腱鞘炎のために今後ツアーを行わないことが発表されたが、アルバムリリースへの意欲は失っていない様子。