イエスを聴く Pt. 1

マイ10大プログレ紹介シリーズ 第3弾

YesはPink Floyd同様サイケデリック・ロック、アート・ロックからプログレへと至ったバンドであり、5大プログレバンドの中では唯一現在までアルバムリリースが続いている。

1968年、Chris Squire(クリス・スクワイア)らが結成したばかりのバンドにJon Anderson(ジョン・アンダーソン)が加入。そこにPeter Banks(ピーター・バンクス)、Bill Bruford(ビル・ブルフォード)が合流することでイエスの母体となるバンドができた。その後メンバーチェンジを経てバンド名をイエスに改名した時点では、アンダーソン、スクワイア、バンクス、Bob Hagger(ボブ・ハガー)の4人構成だった。イエスとして初めてのライヴを行うまでにはハガーとTony Kaye(トニー・ケイ)が交代、ブルフォードが復帰した。

ポスト・プログ

大きな注目の下、1969年にリリースされたデビューアルバム『Yes』は、あまり好ましい評判には結びつかなかった。サイケデリックな要素を持ったフォーク・ロックといったサウンドだが、ジャズの成分を感じさせる展開にはプログレに繋がっていく兆しが見える。The Byrdsの「I See You」やThe Beatlesの「Every Little Thing」のカヴァーが収録されている。オリジナル曲はアンダーソンとスクワイアを中心として制作され、「Looking Around」と「Sweetness」がシングルカットされた。

翌年リリースされた『Time and Words』(時間と言葉)ではアート・ロックと呼べるアプローチをしている。ロックへのオーケストラ導入に挑戦したシンフォニック・ロックと呼べるサウンドだが、映画音楽のフレーズを取り入れる程度の挑戦だった。この挑戦はまだまだ実験の域を出ておらず、無理矢理感を拭えない部分もある。本作でのカヴァー曲は、Richie Havensの「No Opportunity Necessary, No Experience Needed」とBuffalo Springfieldの「Everydays」。前者では特に映画のテーマ曲が大々的に導入されている。本作リリース後にバンクスが脱退した。

プログレッシヴ

新たにSteve Howe(スティーヴ・ハウ)をメンバーに加えてリリースされた『The Yes Album』(サード・アルバム)は、バンド黄金期のサウンドの基盤を築いた作品。組曲を始めとした長尺曲が収録され、よりプログレッシヴ・ロックに接近した作品となった。オープニングの「Yours Is No Disgrace」は10分弱にもなるが、疾走感もあるため長さを感じさせない。「Starship Trooper」は初の組曲で、特にラストのギターソロ「Würm」は秀逸。代表曲の1つに数えられる「I've Seen All Good People」も組曲であり、その第1部「Your Move」(心の光)はシングルカットされた。ラストの「Perpetual Change」は最も典型的なプログレサウンドであり、変拍子や対位法が用いられている。これまで2作の不作を挽回するかのようにヒットし、全英4位を記録した。

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前作のツアー後ケイが脱退し、Rick Wakeman(リック・ウェイクマン)が加入。バンドの曲とメンバーのソロ曲が収録された『Fragile』(こわれもの)は、バンドの黄金期の幕開けとなった名盤。全米4位、全英7位というヒットになった。シングルカットされて大ヒットした「Roundabout」はバンドの代表曲。Brahms交響曲第4番第3楽章をウェイクマンが演奏した「Cans and Brahms」も聞きどころ。ラストの「Heart of the Sunrise」(燃える朝焼け)は日本でもテレビドラマの挿入歌やCMソングとして用いられた。

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Roundabout

Roundabout

そのままの体制でリリースされた『Close to the Edge』(危機)は、バンドのキャリア随一の名盤と誉れ高い作品。全米3位、全英4位という前作を超えるヒットとなった。全3曲で37分超という大作志向。LPの片面を埋める「Close to the Edge」(危機)は18分を超える曲で、その難解な歌詞はHermann Hesseの小説「Siddhartha」からイメージを掴んだという。「And You and I」(同士)も10分を超える曲で、第1部「Cord of Life」(人生の絆)および第2部「Eclipse」(失墜)がシングルカットされた。そのレコーディングがあまりに重労働だったという理由でブルフォードがツアー中に脱退した。

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Close to the Edge

Close to the Edge

Plastic Ono Bandで活動していたAlan White(アラン・ホワイト)が加入して制作された『Tales from Topographic Oceans』(海洋地形学の物語)は、ヒンドゥー教の経典にインスパイアされて構想された作品。LP2枚組、4曲で80分超という前作以上の大作志向となっているが、全英チャートで初の1位を獲得。ウェイクマンは本作のコンセプトに不満があり、脱退した。

黄金期の終焉

1974年、新たにPatrick Moraz(パトリック・モラーツ)を迎えて制作およびリリースされた『Relayer』は、発売当初は評価が低く失敗作とさえ言われていた。宗教的な題材であった前作とは違い、戦争と平和という現実的なコンセプトを敷いている。「The Gate of Delirium」(錯乱の扉)はそのコンセプトのためか、非常に抑揚のある構成になっており、約22分という長尺だが飽きとは無縁の曲。ほか2曲も同様にメリハリの効いた曲になっており、アルバムを通して非常に楽しんで聴ける仕上がりになっている。

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The Gates of Delirium

The Gates of Delirium

ウェイクマンが復帰し、前作からおよそ2年半後にリリースされた『Going for the One』(究極)は、以前のようなポップさを兼ね備えたサウンドへ回帰。シングルカットされた「Wonderous Stories」(不思議なお話を)は全英7位のヒット曲になった。タイトル曲のポップセンスもさることながら、やはり「Parallels」(パラレルは宝)のような音の厚みに心を奪われる。これは確実にウェイクマンが復帰したことによるものだ。またこれまでの集大成といわれる「Awaken」(悟りの境地)における構成美には目を見張るものがある。"Going for the One"、すなわち“絶対無二を目指すこと”を「究極」と訳す邦題のセンスは秀逸。

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Going for the One

Going for the One

メンバー不動のまま制作された『Tormato』は、楽曲のコンパクトが目指された作品。露頭を意味する"tor"と、トマトを掛けた造語のタイトルも印象的。それに合わせたジャケットのインパクトも相当のものだ。楽曲に散りばめられたひとつひとつのメロディの質は高く、紛れもなくイエス黄金期のメンバーの手による作品であることには違いない。

アンダーソンとウェイクマンが脱退し、The BugglesTrevor Hornトレヴァー・ホーン)とGeoffrey Downes(ジェフ・ダウンズ)が加入。1980年の『Drama』では、長くても8分弱であった前作の方向性を捨て、10分超えの曲も収録。印象的なイントロにはじまる「Into the Lens」(レンズの中へ)は、哀愁あるサウンドとホーンのハスキー気味なヴォーカルがマッチしている。過小評価されがちな作品であり、たしかに過去の名作たちと比較してしまえば劣るものだが、新しいステップを踏み出したという意味でも重要な作品といえる。