イエスを聴く Pt. 2

再開~分裂

『Drama』のリリースに伴うツアー後、1983年までイエスの活動は停止していた。その間ハウとダウンズは、John WettonやCarl Palmerと共にAsiaを結成。そのデビューアルバムはイエス以上の大成功を収めた。スクワイアとホワイトはJimmy PageとのXYZを経て、Trevor Rabin(トレヴァー・ラビン)とCinemaを結成。ここにケイ、アンダーソンが加わることでイエスの活動再開に至った。

90125』(ロンリー・ハート)はこれまでの作品とは異なり、ポップなサウンドへと転換した。80年代に入りポップ性を強めたGenesisや、前述のスーパーバンドAsiaと同様に時代の流れを汲んだ音楽性へとシフトしたのだ。冒頭の「Owner of a Lonely Heart」(ロンリー・ハート)は全米1位の大ヒットとなり、日本でも様々なCMにタイアップされた。この曲はプログレという枠ではなく、ポップ・ロックの名曲として語られるべきもの。イントロの変拍子プログレの名残を感じさせる「Changes」(変革)や曲調の変化が印象的な「Hearts」、グラミー賞でベスト・ロック・インストゥルメンタル・パフォーマンスを受賞した「Cinema」のような佳曲も目立つ。

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Owner of a Lonely Heart

Owner of a Lonely Heart

1987年の『Big Generator』は前作の流れを引き継いだ作品であるが、プロデューサーが途中で交代するなど制作が難航した。ラビンが後任プロデューサーを兼任することとなり、バンドの主導権を握った。爽やかなコーラスが聴ける「Rhythm of Love」や、どことなく「Owner of ~」に近い(ただしヘヴィになっている)サウンドを見せるタイトル曲が秀逸。またイントロのヴァイオリンの美しい旋律に心を奪われる「Love Will Find a Way」は、これまでのイエスには珍しい率直なラブソング。

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ラビン主導のイエスに不満を持ったアンダーソンは、『Fragile』制作時のメンバーであるブルフォード、ウェイクマン、ハウと共にAnderson Bruford Wakeman Howeを結成。多くのサポートと作り上げたアルバム『Anderson Bruford Wakeman Howe』(閃光)は大きな注目を集めた。時代の流れとともに変化があることは否定できないが、概ねイエス全盛期を支えたサウンドに接近しており、全編に渡って壮大なアンサンブルが楽しめる。硬質なキーボードプレイが堪能できる「Fist of Fire」や、重厚なアンサンブルと芳醇なメロディに満ちた「Brother of Mine」、ただただひたすらに美しい「The Meeting」、最も80年代のイエスサウンドに近い「Order of the Universe」など名曲揃い。

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Anderson Bruford Wakeman Howe

Anderson Bruford Wakeman Howe

  • Anderson Bruford Wakeman Howe
  • プログレロック / アートロック
  • ¥1600

再結成

ABWHが2作目『Dialogue』の制作に取り掛かったが、楽曲の数が足りずにラビンに楽曲提供を依頼。結果的に本家イエス(90125イエス)とABWHが合体し、8人メンバーで『Union』(結晶)を発表。そういった経緯のため8人全員で演奏した曲は1曲もなく、さらにハウのソロやブルフォードとレヴィンの即興演奏も収録されている。ABWH曲である「I Would Have Waited Forever」は、まさに70年代イエスを思わせるフレーズに胸が躍る。ハウのソロ曲「Masquerade」は、グラミー賞のベスト・ロック・インストゥルメンタル・パフォーマンスにノミネートされた。90125イエス曲の「Lift Me Up」はシングルカットされてヒットとなった。

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I Would Have Waited Forever

I Would Have Waited Forever

Lift Me Up

Lift Me Up

結局1994年の『Talk』制作までには、もとの90125イエスのメンバーに戻った。そのため『Big Generator』同様ラビン主導による作品になったが、以前よりはアンダーソンの意思も尊重されるようになったそうだ。結果としてアルバムのセールスは振るわず、ツアーの動員も少なかった。とはいえ80年代以降のイエスの中心的存在であったラビンの集大成とも言える佳作に仕上がっている。楽曲も「The Calling」や「I Am Waiting」、「State of Play」、「Endless Dream」のような粒ぞろい。曲によってはメタル然とした硬質なフレーズが顔を覗かせるのがツボ。

ラビンとケイが脱退後、ハウとウェイクマンが復帰。『Tales from a Topographic Oceans』および『Going for the One』と同じメンバー構成で制作された1996年の『Keys to Ascension』、1997年の『Keys to Ascension 2』は、スタジオ音源とライブ音源が混在された作品。この2つの作品を合わせて計7曲の新曲が制作された。本作に伴うツアーの予定がなかなか決まらず、ウェイクマンのソロツアーが決定した後にスケジュールが知らされたためツアーはキャンセルに。こういったトラブルが原因で、またウェイクマンは脱退した。これにより、このアルバムが現在まで最後のクラシックメンバーによる作品となっている。

Igor Khoroshev(イゴール・コロシェフ)がサポート・キーボーディストとして参加。スクワイアのソロプロジェクトの作品がイエスの作品として昇華し、Billy Sherwood(ビリー・シャーウッド)が正式メンバーとして加入して制作されたのが『Open Your Eyes』。80年代以降のサウンドとは異なり、オリジナルメンバーが主導して制作された作品ではあるが、ソロ作品がベースになっていることもあってイエス元来のサウンドとはまた異なった雰囲気が強い。

コロシェフが正式メンバーに加わって制作された『The Ladder』は、Bon Joviの『Slippery When Wet』やAerosmithの『Permanent Waves』のプロデュースを務めたBruce Fairbairnの手によるもの。イエスらしいサウンドを時代にあった形にもっていき、統一感を持たせて完成させるという功績を果たした。前作でも見せたソリッドさも持ちながら、イエスならではのアンサンブルを意識したサウンドも兼ね備えている。

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コロシェフとシャーウッドが脱退後、新たなキーボーディストは加入させないまま2001年に『Magnification』を発表。これまでキーボードが担っていた要素は、オーケストラを導入することでカヴァーしている。80年代以降の無機質気味なサウンドの上に、オーケストレーションによる温かみのある哀愁が載ることで、映画音楽のような壮大さも蘇った。タイトル曲および「Spirit of Survival」という冒頭2曲では、オーケストラが加わることで一層強化されたアンサンブルの美しさが堪能できる。本作中ではポップ色が強めの「Don't Go」を挟み、以降はさらにオーケストラとの親和を強める。まさに映画音楽のような質感の「We Agree」や組曲「In the Presence of」など、終盤まで聴き手を離さない。

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現在

前作以降数年間は制作活動を行なわず、ライブのみ行っていた。健康上の理由からアンダーソンが脱退し、後任としてBenoît David(ベノワ・ディヴィッド)が加入。また正式メンバーが決まっていなかったキーボードには、ダウンズが復帰し2011年に『Fly from Here』を発表。プロデュースはホーンが担当したことにより1980年の『Drama』に近い構成で制作された。タイトル曲にもなった組曲は『Drama』時代に制作されつつも収録が見送られた「We Can Fly from Here」を改変したもの。ファンタジックな作風も相まって、プログレッシブな時期のサウンドに若干回帰したようにも思える。

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ディヴィッドが病気のため脱退し、Jon Davison(ジョン・デイヴィソン)が加入。2014年にリリースされた『Heaven & Earth』は現時点での最新アルバムで、前作同様ファンタジックな流れに位置する作品。これまで冒頭を飾ってきた楽曲たちとは大きく異なり、穏やかに導入する「Believe Again」には驚かされつつも違和感なく聴き込める。デイヴィソンの歌唱がアンダーソンに近いこともあってか、前作以上にオリジナルイエスと似た空気を感じることが出来る。

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2015年、スクワイアが白血病により死去。これによってイエスからオリジナルメンバーがいなくなったが、バンドの継続が発表された。
2017年にはロックの殿堂入りを果たし、アンダーソン、ハウ、ブルフォード、ウェイクマン、ホワイト、ラビンの6人が出席した。またブルフォード以外の5人によって「Roundabout」および「Owner of a Lonely Heart」が演奏された。夏からはツアーが行なわれていたが、9月にハウの次男が死去し、残りの日程がキャンセルされた。